毎日新聞連載記事 『うつ・50話』
続・第25回 甲状腺との関係
喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にあるチョウのような形をした臓器が甲状腺です。分泌される甲状腺ホルモンは体の細胞の新陳代謝を高めたり、交感神経を刺激したり、体の成長や発達を促したりしますが、心の健康とも深くかかわっています。甲状腺の病気は主に、ホルモンの分泌が増えすぎる「甲状腺機能亢進(こうしん)症」と、減少する「甲状腺機能低下症」に分かれます。甲状腺機能低下症では、体がむくみ、皮膚の乾燥、息切れ、便秘、肩こりといった身体症状だけでなく、疲れやすい、やる気がでない、物事に集中できない、物忘れがひどい、頭の回転が鈍くなるといった精神症状を生じます。
これらはうつ病の主症状ですので、自覚症状だけで両者を見分けるのが難しい場合があります。また、甲状腺の病気を契機として、うつ状態を経てうつ病になることもあります。
うつ病の診断で、甲状腺の病気の疑いがあれば、血液検査を行い、甲状腺機能に異常が見つかった場合は内科的治療が優先されます。これでもうつ症状が改善しない場合には抗うつ薬が付加投与されます。また、甲状腺ホルモンの低下がなく、このホルモンを調節している甲状腺刺激ホルモンだけが異常値を示す場合は「准臨床的甲状腺機能低下症」と呼ばれています。これは治療の対象にはなりませんが、高齢の女性に多く、うつ病になる危険性が高いと言われています。さらに通常の抗うつ薬療法に反応しない難治性うつ病の治療では、抗うつ薬に甲状腺ホルモンを付加投与して治療を行うこともあります。
次回は「収集癖とうつ」について。

(大阪市立大大学院医学研究科講師・神経精神医学、橋本博史)
毎日新聞 2008年9月13日 大阪朝刊
本原稿は、当院医師により執筆され毎日新聞に掲載された原稿を、毎日新聞社の許可を得て転載したものです。
挿絵は、毎日新聞に掲載された際、添えられたイラストです。
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